18 強き者ども

Mission18 強き者ども


 突然にしてウィンズ基地を訪れたのは、
以前レイ達が真実を求めて氷雪の霊峰への旅をしていた時に
彼らを助けたアブソル――カオスだった。
あいさつもそこそこに、カオスが話を始める。

「あれから私は、各地を調べて回った。
 あの石のこと、そして描かれた模様のことを」
あの石とは――氷雪の霊峰で、イマーゴから受け取ったものだ。
レイ達は、イマーゴから聞いた話を思い出す。
「確か、世界の危機を止める力になる、って言ってたか。
 だけど正しい持ち主が使わなければならないという」
「その持ち主が、私なのよね」
当時聞いた話は、そんな内容だった。
再びカオスが話す。
「石を使うことによって、ある場所に行くことができるとわかった。
 もちろん、誰もが行けるわけではないがな」
「ある場所って?」
ロットが素早く切り返した。
カオスは一呼吸置いて、その答えを言う。
「……幻の大地だ」
一瞬、いや数瞬の間。

「えーーーーーっ!!?」

驚きを隠せなかった。
幻の大地、そこは今まさに捜し求めている場所なのだから。
落ち着かないながらも、レイはカオスにその辺の事情を説明した。
時が止まることが星の停止につながる、という話から。
「なるほど……」
カオスは納得したように言った。
レイ達には、カオスがこの現代でスペクターが語った話を知っているかどうかはわからない。
だが、目の前にいるアブソルは話を疑っているようには見えなかった。
「つまり、あの石は星の停止という危機を回避するために
 幻の大地に行くための鍵だった、と考えられるのか」
そして、彼が持ってきた話と、ここで聞いた話をまとめた。
「けど本当に不思議よね。こんなちょうどいいタイミングでカオスと再会するなんて」
ルナがそう言うと、
「これも運命かもしれんな」
カオスは、普通に返した。

 だが、まだ問題が残っていた。
「ソシテ、コレヲドコデ使エバヨイノカ?」
イオンが鋭く疑問を投げかけるが、カオスはこの問題の答えも持ってきていた。
「ここから北西に行った入り江の、磯の洞窟だ。
 その奥で、石と同じ模様を見つけた」
「これと同じ模様が……」
何かを感じずにはいられない。
「こうなれば、行くしかないな」
レイが言う。仲間達も賛同した。
「では私も行くとしよう。少しでも役に立てそうならば」
願ってもない助力だった。

 しかし、本当はこれで道筋が全て見えたわけではなかった。
「幻の大地へは誰もが行けるわけではないって言ってたけど、
 それじゃ誰が行けるのかな?」
そう話すのはロットだ。
「私にもわからないが……選ばれた者のみが行けると、言い伝えにある」
レイ達を見回し、そしてカオスが言う。
「ルナは間違いない。未来から来たレイも、おそらくは。
しかし他の者については、行ってみなければわからない」
「まあ、行けばわかるだろう」
カオスの返答の後に、グレアが言った。

 その日の夕方に、時の歯車を集め終わったカミルが戻ってきた。
全ての準備が整い、明日にも磯の洞窟へ向かうこととなる。
もちろん、カミルも同行する。

 月が高く昇った、深夜のこと。
すでに就寝時間を過ぎ、ウィンズ基地でもほとんどのポケモンはすでに寝ている。
だが、レイは眠れなかった。
明日、すべてを終わらせるために出発する。
星の停止を止めるために。
自然と、不安は無かった。しかし、どうも落ち着かない。
「……レイ?」
突然、部屋の扉が少しだけ開く。
ルナが来ていたのだ。
「入っていいかな?」

 いきなりのことで、レイはさらに落ち着かない。
ルナが、レイの隣に来た。
それだけなら過去に何回かあったことなのだが、しかし……。
「レイ……」
先に話しかけるのは、ルナだった。
「明日だよね。私達、星の停止を止められるのかな。
 不安になって眠れなくて、それで来ちゃった」
その言葉を聞いて、自然とレイが手を伸ばす。
ルナの頭上に向けて。
「ここまで来たら、やるしかないさ。
 それに、少なくとも1匹じゃないだろう。僕達は、幻の大地に行けると思う」
そう言いながら、ルナの頭をなでる。
張りつめていたルナだったが、緊張が解けていくのがレイにも見て取れた。
「ありがとう。なんかいつもこんな感じな気がするけど」
「僕で力になれるなら、全然OKだよ」
一瞬、会話が止まる。

 だが、それも一時的なもの。
目と目が合う。レイとルナの。
「星の停止を止めて、ここに戻ってこれたら……
 私、レイに話したいことがあるの」
「話したいこと……?」
ルナは頷くと、言葉を続ける。
「大事な話なの。聞いてくれる?」
考えるまでもなく……と行きたかったが、少し間が開いた。
「もちろん。約束する」
その約束を守るためには。
「必ず、生きて帰ろうね」
いつの間にか、ルナの顔から不安の表情は消えていた。
「……おやすみ」
そう言って、ルナはレイの部屋から出て行った。
残ったのはレイ1匹だけ。
しかし、不思議と落ち着いていた。
これなら寝付けそうだ。

 翌朝、一行は磯の洞窟を訪れる。
ウィンズの5匹に加えて、カミルとカオス。総勢7匹だ。
いつもは最後尾を歩くレイだが、今日はその定位置をカオスに譲っていた。
「ここは任せろ。お前には幻の大地へ行くという大仕事が待っている」
そう言って、カオスが引き受けたのだ。
一方、ルナも仲間達から守られていた。
理由は同じ。

 この洞窟は、それほど深いわけではなかった。
意外なほどあっさり洞窟の奥まで到達できた。
「ここだ。ここが問題の場所だ」
カオスが言う。
一行の目の前に、大きな壁が立ちはだかる。
その壁には、不思議な、しかし見覚えのある模様が描かれていた。
「あの石の模様、だな」
レイは、ルナの方に振り向いた。
ルナが持ってきた石を、地面に置く。
すると。
「!!?」
石と壁、両方の模様が青く輝き出す!
まるで共鳴しているかのように。
輝きが収まると、壁は中央から2つに割れた。
この壁の正体は扉だったのだ。
開いた扉の奥に、霧のようなものが立ち込めているのが見える。
「どうやら、あの道の先が幻の大地ってわけか」
そう言うのはカミル。
「それじゃ、行くとしようぜ」
グレアが、先頭をきって歩きだす。
しかし。
「うおっ!?」
扉を通ろうとした瞬間、何かの力に弾かれた。
「どうしたの!?」
ロットが駆け寄る。
「選ばれた者以外、ここから先へ進むことはできない」
後ろからカオスが語る。昨日も話していたことだが。
ルナがグレアの隣を通り、扉を抜けようとした。慎重に。
今度は、何の抵抗も受けなかった。
「やっぱり、ルナは選ばれた者ということか」
「他のヤツらはどうなんだ?」
この場にいる全員が、扉を通ることができるかを試した。

結果、扉を通ることができるのは
レイ、ルナ、カミルの3匹だけということがわかった。
「まあ、予想通りか」
と言うカオスも、幻の大地へは行けない。
「そういうことならしょうがない。ここから先は僕達だけで行こう」
レイが言った。
「必ず生きて帰ってきてね!約束だよ!」
ロットが、力いっぱい明るい表情を見せる。
それをよそに、グレアがレイに近寄る。
「……今度こそ、ルナを頼むぞ」
小さな耳打ち。レイ以外の誰にも聞こえないような。
レイは、ただ頷いた。
返事はそれで十分だった。

 そんな時。
「お前ら、上だ!」
カミルが突然叫んだ。
一行が上を見上げると、見たこともないポケモン達が天井に張り付いているではないか!
「……見つかったか」
ポケモン達は、次々と地面に降り立つ。
その先頭に立つ、鋭い鎌を持ったポケモンが言い放つ。
「我らは化石軍団!」
「我らは化石軍団!」
後ろにいる大勢のポケモン達が、同じ台詞を繰り返す。
「我らはこの洞窟を通る者達に、戦いを挑む!」
「戦いを挑む!」
またも繰り返しだ。
「ねえ、このポケモン達は何なの?」
ロットが、カオスに問う。
「絶滅したはずの、化石ポケモンだ。
 先頭にいるのがカブトプス。後ろにはオムスターやユレイドル、アーマルドがいるな」
よく見てみると、彼らは揃いも揃ってごつい外見をしている。
「これから、主らとの戦いだ!覚悟せよ!」
「覚悟せよ!」
化石軍団は、戦闘態勢に入る。
それに対し、カオスが叫ぶ。
「レイ、ルナ、カミル!お前達は先に行け!」
「えっ!?」
「星の停止まで時間が無いんだろう?」
「あたし達で何とかするよ!」
戸惑うルナを、グレアとロットが押し切る。
少し迷ったが、レイは判断を下す。
「わかった。行ってくる!」
「お前ら、生き残れよ!」
「その台詞、そのまま返そう」
レイの後にカミルが放った言葉を、カオスがそのまま返した。
そして、3匹は扉をくぐり、霧の中へ進んでいく。
彼らの向かう先は、幻の大地。

「楽しみが減ったな。まあよい。行くぞ!」
「行くぞ!」
化石軍団が、またも声を合わせる。
「こっちも準備OK!」
ロットが言い返す。
そして、戦いが始まった。

 レイ達を送り出した一行は、わずか4匹。
対して、化石軍団は数十匹の集団。
モンスターハウスを思わせるような乱戦になった。
しかし、今まで数々の戦いを勝ち抜いてきた一行にとって
ほとんどのポケモンは軽く蹴散らせる。
イオンの放つレーザーと閃光が化石軍団を巻き込み、
ロットが花びらをまき散らしながら連続で攻撃する。
グレアは今や愛用品となったふといホネを振りまわし、1体ずつ確実に大打撃を与えていく。
そして、カオスの鋭い攻撃も次々と炸裂した。
ほとんどの化石ポケモンは、手も足も出ない。
しかし、そんな彼らの猛攻撃にも押されない強者が、相手の側にも1匹いた。
それはリーダーのカブトプスである。
切れ味抜群の鎌を扱い、他の化石達とは段違いの強さを見せつける。

 戦いがしばらく続いた後。
「なかなか、やりおる」
カブトプスは、自ら攻撃を中断して後ろに飛び退く。
化石軍団もその後ろに続く。
「主ら、強いではないか。気に入ったぞ」
ここでは、化石軍団が言葉を繰り返さなかった。
そして、カブトプスが1歩進み出る。
「どうだ、そこのカラカラよ。それがしと一騎打ちをしてみんか?」
その言葉は、グレアに向けられていた。
選択肢はただ1つ。
「いいだろう。受けてやる」
互いに、他のポケモン達は洞窟の壁際に下がった。
誰であっても、手を出すことは許されない。

 グレアは、右手に持ったふといホネの他に、左手にも骨を持った。
両腕に鎌を持つカブトプスに対し、両手に骨を持って対抗する。
「俺はグレア!探検隊ウィンズのメンバーだ!」
「それがしの名は、マルス!いざ尋常に勝負!!」
それぞれが自らの名を名乗る。
互いに、相手を見据えたまま動かない。
仕掛ける時を待っている。
その時、洞窟の天井から、大きな水滴が落ちた。
それが、始まりだった。
2匹の戦士による、戦いの。

 両者は、同時に走り出した。
グレアが飛びあがり、右手の骨を振り下ろす!
「ぬんっ!」
マルスは、横飛びにかわす。
すぐさま鎌を振るうが、グレアもそれを回避してみせる。
「ほう……やりおる。では!」
マルスが天井に向けて鎌を振る。
次の瞬間、洞窟の天井から岩が降り注ぐ!
「くっ!」
かわそうとするが、岩にはばまれて思うように動けない。
頭上から大岩が降ってくる!
「危ない!」
遠くから、ロットの声が聞こえてきた。
だが、グレアは落ち着いていた。
「……」
何も言わず、グレアは大岩をたたき割る。
三日月型の残像を残して。
大岩は2つに割れ、グレアを避けるように落ちた。
これを見ていたマルスは少し驚くが、
「まだまだ!」
今度は、その体に水をまとう。
そして、全速力で突進する!
その姿は、まさに滝をさかのぼるようだった。
グレアは、体を横にひねってかわす。
だが、目の前に鎌が迫る!
「おっと!」
2本の骨を交差させた場所で、マルスの鎌を受け止める。
骨と違って、鎌は切れ味が鋭い。
中途半端な受け方では、骨ごと斬られる。
「次!」
間髪入れず、再び鎌による一撃。上からだ。
今度は、右手のふといホネだけでガードした。
マルスの絶え間ない連続攻撃に、グレアは防戦一方に追い込まれていた。
しかし、その左手には骨が握られていない。
攻撃を続けながら、マルスはふとそのことに気づいた。
だが、もう遅い。
グレアの手を離れた骨が、背後からマルスを打ちつける!
「ぐっ!」
マルスの攻撃の合間に、グレアは左手の骨を投げていた。
戻ってくる時に命中するように。
この不意打ちで、マルスに隙ができた。
グレアは、この隙を見逃さない。
左手で骨をキャッチし、飛びかかる!
「くらえ!」
ふといホネで、素早く殴りつけた。
それに続いて左手での攻撃。
さらに下からの振り上げで相手を空中に飛ばし、
次々と攻撃を加えていく。
「ぐおっ!!」
最後の攻撃で、マルスを地面に打ち落とす。
一瞬にして、10発もの攻撃を命中させた。
「どうだ、まだやるか?」
着地したグレアは、戦いの相手を見下ろす。
その言葉に、マルスは首を横に振る。戦う気力は残っていないようだった。
「見事なり……。しかし、よくあの状況下で左手の骨を投げ当てるとは……」
目線を動かさず、グレアが言い返した。
「確かにお前の鎌は鋭い。切れ味抜群だろうよ。
 だが、俺の骨はお前のとは違って、腕から離すことができる。その違いだ」
2匹の会話は、それだけで終わった。

「ひ……ひぃ……」
「ひぃひぃ……」
しかし、後ろで見ていた化石ポケモン達には、目の前の光景が信じられないようだった。
それも無理からぬこと。自分達のボスが負けたのだから。
「ひえーーーーーーっ!」
化石達は、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
1匹のアーマルドは、ボスのマルスを担ぎ上げてから退散していく。

 その成り行きを見守っていたグレアのもとに、仲間達が駆け寄ってきた。
「すごいじゃない、あんな勝ち方するなんて!」
「見事な戦いだったぞ」
見ている側だったのにエキサイトしているロットに、
対照的に落ち着いているイオンとカオス。
「ふう……」
彼らを見て、グレアは大きく深呼吸した。

 そして、4匹は扉の向こうを見る。
レイ、ルナ、カミルが進んでいった、霧に満ちた空間を。
「この先には、進めないんだよな」
「うむ。私達にできるのは、ここまでだ」
「頼んだよ……!」

 4匹は、扉に背を向けて歩き出した。
選ばれし者達に、全てを託して。




Mission18、原作のChapter-17~18。
磯の洞窟から、幻の大地に向かうまで。
逃避行で張っておいた伏線を回収。そのためカオスを再び出しました。

後半のグレアVSマルスは、原作のエンディング前としては本編最後の仕事。
ここはエース同士の1対1がいいかと思って書きました。
サブタイトルもその辺を意識して、DQ7のBGM名より。

原作ではプクリンとペラップに関わる重要イベントが入っていましたが、
これは主人公とパートナーがギルド所属でないとうまくまとまらないので削除しました。
ちょっと惜しい気もするけど……。

あと2章で、原作のエンディングに到達します。
プレイしていた時は目が離せないイベントの連続。
少しでも明確に、再現できれば。

2008.08.18 wrote
2008.09.18 updated



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